M&Aの教科書として、現在多くのビジネススクールや企業研修のテキストとなっている“古典”でもある。
1988年10月、RJRナビスコのCEO、ロス・ジョンソンは、前年のブラック・マンデー以降40ドル台に低迷する同社の株価に目を付ける。自社株買いによる株式非公開化、巨大企業の獲得を目指しLBOを宣言。
しかし、この経営者グループの提示価格は、買収に向け融資を取り付けた170億ドルを基準に計算され、一株75ドルと低い水準に抑えられた。
一方、最初にLBOを提案してジョンソンに一蹴された投資ファームKKRのヘンリー・クラビスは、ジャンク債の利用で一株90ドルでの買収が可能と判断。モルガン・スタンレーはじめ有力投資銀行4社とともにビッド(入札)に参加する。
両グループは一時提携を模索するが交渉は行き詰まり、ついに経営グループが92ドルのビッドを発表して決裂に終わる。
その後、フォーストマン・リトル、ファースト・ボストンなどの投資会社が名乗りを上げては消え去る中、ビッド価格は94、100、105、108ドルとうなぎ上りに上昇。
リークや匿名での提供など情報をめぐる泥仕合、グループを乗り換える裏切りなど、さまざまなドラマが展開される。
最終のビッド額は、経営グループ112ドルに対し、クラビス陣営は109ドル。
そして迎えた11月30日、ついに特別委員会の裁定が下り、クラビスが勝者に決定する。従業員に対する姿勢や今後の経営方針で、特別委員会の信頼を得たクラビスが、勝利をもぎ取ったのだ。
結局、RJRナビスコは251億ドル(当時のレートで約3兆円)に達する総額で買収される。
しかし、敗者となったはずのジョンソンは約27億円の退職金と年金を手にし、経営グループの他の6名の役員たちも30億から数億円を手にした。また、負けた側の投資ファームも多額の手数料を手にしている。このLBOに敗者はいなかったのか? 真実はやがて明らかになっていく。
著者は、当時ウォール・ストリート・ジャーナルの取材現場で活躍していた記者、ブライアン・バローとジョン・ヘルヤー。RJレイノルズやナビスコの誕生秘話から巨大企業への道のりをはじめ、巨額の資金をめぐる欲と欲のぶつかり合い、知恵を絞った情報戦などのLBOの裏側まで、当事者たちに100回以上直接インタビューし、克明な再現レポートを書き上げた。
本書を読めば、現在に至るアメリカ企業の買収の実態が手に取るようにわかる。
また、今回は「刊行二〇周年に寄せて」「その後の展開」を新たに掲載。LBOから20年経過した当事者たちの暮らしぶりや、再建に苦しむ企業の状況を確認し、1988年のLBOの意味や功罪、金融資本主義の在り方まで考えさせられる内容になっている。
ジョン・ヘルヤー(John Helyar)
『ウォール・ストリート・ジャーナル』アトランタ支局次長、『サウスポイント』主席編集部員などを歴任。『ウォール・ストリート・ジャーナル』時代のRIRナビスコ買収に関する取材活動によって、ブライアン・バローとともにジェラルド・ローブ賞を贈られた。
第11章 不毛の提携交渉
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