その後、大論争が巻き起こった。アライドはワシントンスタイルの情報操作で応戦し、アインホーンを攻撃し、中途半端な真実やあからさまなうそをまき散らしたと非難した。SEC(証券取引委員会)はといえば、政界と癒着したアライドの強い要請で、アインホーンが作成したアライドに対する見事な訴状を見て投資家を保護するどころか、株価操作の容疑でアインホーンの調査を開始した。さらにSECはその後6年にわたって、12回以上もの公募増資をアライドに認め、新規投資家から10億ドル以上を調達させていたのである。問題はこうして拡大していった。だが、情報操作やうそ、そしてSECの調査にもめげず、アインホーンは講演後もリサーチを続け、そしてとうとうアライドが彼の予想をはるかに超える悪事を働いていることを突き止めた――しかも、それが今日まで続いているのだから、何とも恐ろしい。
本書は、読者の心をわしづかみにするような現在進行形の武勇伝を時系列でまとめたもので、60億ドルを運用するヘッジファンドのグリーンライト・キャピタルがどのように投資リサーチを行っているのか、また悪徳企業の策略とはどんなものなのかを詳述している。読み進めていくうちに、規制当局の無能な役人、妥協する政治家、ウォール街の上得意先が違法行為にさらされないようにと資本市場が築いたバリケードを目の当たりにするだろう。また、政界と癒着した企業に政府が制裁を加えるのを邪魔する大きな障害にも直面するだろう。これは、第二のエンロンになること必至である。本書では、ウォール街、つまり投資銀行、アナリスト、ジャーナリスト、そしてなかでも規制当局の失態を明らかにしている。
アインホーンのこの「告発」は今のウォール街そのものの物語である。話は無名に近い一企業の枠をはるかに超えている。本書は、効果的な法の執行、自由な発言、そしてフェアプレーを求める重要な要望書なのである。
企業の汚職や金融詐欺など過去のものだろうという人は、ぜひとも本書を読んで考えを改めてほしい。ウォール街の現状とは、こうした違法行為が野放しにされ、こうした違法行為に加担する企業がどれほど守られ、逆にその悪を暴こうとする者は攻撃の矢面に立たされることになるのだ。これは投資と企業倫理、そして米連邦政府が投資家や納税者をどのように保護すべきか――保護してくれないことも多いが――を考えさせてくれる話である。(全文を読む)
アライド・キャピタル(日本にも同名企業があるようだが、本書に登場するアライドとは無関係である。念のため)の経営陣もそのたぐいなのか。株主たちも、高額配当をきちんと受け取っているのだから、当然自分たちが被害者だとは思っていない。ウォール街にとってはまさに泣きっ面に蜂状態だが、昨年末にはバーナード・マドフ・ナスダック元会長が同様のねずみ講による巨額詐欺で逮捕された。詐欺師としては完璧だ。SECも見抜けなかったようだが、本書ではそうした規制当局や政治、司法の不備や怠慢、無関心ぶりなどが浮き彫りになっている。わが国の状況に照らしてみると、さして変わらない部分もあることが分かり、なぜかニヤリとしてしまうのはわたしだけだろうか。ただ、あらためて財務諸表や氾濫する情報の読み方の難しさを思い知らされる。
本書の著者デビッド・アインホーン氏は、まさしくそんな巨悪に果敢に挑んでいく正義感あふれるアメリカ人だが、二〇〇三年にウォーレン・バフェット氏と昼食を共にする権利を二五万一〇〇ドル(約二五〇〇万円)で落札したことで知られる。
また、何と言っても、昨年リーマン・ブラザーズの会計処理を批判し、空売りを仕掛けたことでメディアの注目を集めた。それにしても、長いドキュメントを書いてくれた。話が未完のせいか、読後にはやや物足りなさも残るが――決着がついてから自らの相場観などと共に勝利宣言として執筆してくれてもよかった。そこで後日談を、と思ったが、あと一冊本ができてしまいそうなのでやめておく。ちなみに、二〇〇九年三月一三日付のアライドの株価は、終値で一・〇三ドル、配当は一株当たり二・六〇ドル(利回りは何と二五二・四〇%!)。
はじめに――講演の反響
第1部 慈善活動とグリーンライト・キャピタル
第2部 めまいがするほどの急展開
第3部 だれか、だれでもいいから目を覚ましてくれないか?
第4部 社会はどう機能しているのか(いないのか)
第5部 グリーンライトは正しかったんだ……、さあ、頑張ろう
第28章 告発と否認
用語集
目次
まえがき
謝辞
アライド・キャピタルの株価チャート
登場人物
第1章 グリーンライト創業以前
第2章 「公認」を得て
第3章 グリーンライトの初期の成功
第4章 インターネットバブル期のバリュー投資
第5章 アライド・キャピタルを解剖する
第6章 アライドが反論する
第7章 ウォール街のアナリストたち
第8章 「まさかの」会計手法
第9章 事実――いや、きっと違う
第10章 ビジネス・ローン・エクスプレス
第11章 休戦かと思いきや、再び戦闘開始
第12章 おれか、それともお前の偽りの瞳か?
第13章 ディベートと市場操作
第14章 株主に報いる
第15章 いったいBLXに何の価値があるというのか?
章16章 政府が調査に入る
第17章 つらい朝
第18章 操り手、物書き、そして学者
第19章 クロールが深く掘り下げる
第20章 当局を奮起させる
第21章 九〇〇万ドルを賭けたスリーカードモンテ
第22章 もしもし、どちら様?
第23章 内部告発者
第24章 ネイキッドアタック
第25章 別の融資でまた不正
第26章 政治のにおい
第27章 金を持ち出すインサイダー
第29章 告発と自供
第30章 終盤戦
第31章 SEC、カーペットの下にシミを発見
第32章 雑草がはびこる庭
第33章 有罪判決、公聴会、そして訴訟の棄却
第34章 見る目がない者、不器用者、メビウスの帯、そしてモラルハザード
訳者あとがき
著者紹介
デビッド・アインホーン(David Einhorn)
ロング・ショート戦略を用いるバリュー志向のヘッジファンド、グリーンライト・キャピタルの社長兼創業者。一九九六年に運用資産100万ドルで立ち上げたファンドは、その後年25%を上回る純収益を上げ続けている。グリーンライト・キャピタル・リー(ナスダックのティッカーは「GLRE」)の会長も務めており、マイケル・J・フォックス・パーキンソン病リサーチ財団とヒレル(ユダヤ人の大学生活のための財団)の理事にも名を連ねている。1991年、コーネル大学を首席で卒業し、あらゆる学科で抜群の成績を収めた。文理・教養学部で文学士号を修得。なお、グリーンライトによるアライドの空売りと本書から得られる収益のうち、個人の取り分をすべて慈善団体に寄付することを公言している。
(ウィザードブックシリーズ152)
読者のご意見
日本では、あまりメジャーではないアライドという会社を通じ、アメリカの証券業界の内側に切り込んだ傑作である。...もっと見る
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