意志の弱さという問題を解決できる効果的な仕組みがすでに存在しているのだ。その仕組みとは、「締め切り」である。
ヘブライ大学の研究によると、「プロジェクトの完了であれ、グループの意思決定であれ、何かを実行する時間が限られていると、無駄が減り、集中力が高まり、生産性や独創性が高まる」。安心してほしいのだが、タイミングよく完了させることと、卓越した内容に仕上げることは両立不能ではない。
しかし、締め切りを設定したとたん、人間は締め切りぎりぎりまで仕事を先送りする傾向にあるのだ。この現象は、「デッドライン効果」と呼ばれている。
デッドライン効果を研究する研究者の間では、おしなべて「デッドライン効果=悪」という見方で一致している。強力だが破壊的という意味だ。
その悪しきマイナス面も心得ておかねばならない。「効果」というと、いいことずくめのように聞こえるが、締め切りを設定すると、プラスに転ぶこともあればマイナスに転ぶこともある。デッドラインで救われる人も、破滅を辿る人もいるのだ。
本書で取り上げているような本当に優れた組織なら、基本的な人間の心理を変えなくても、マイナス面を排除できる仕組みが備わっているものである。
7つの章を通じて、信じられないような偉業を達成した組織を紹介する。数々の現場を見てきて、締め切りの活用に最も長けていたのは、管理職クラスではなく、現場の第一線で働く人々だった。短い締め切りの効果を心得ていて、その知識があったからこそ、その後のあらゆる発展につなげていたのである。
同様に、期限までの残り時間を示すカウントダウンクロックのセットの仕方、リセットの仕方を身につければ、完了までの時間でも、見直しの時間でも、息抜きの時間でも、自分が本当に必要とするものを思いのままにコントロールできるはずだ。
各組織の働き方を紹介し、目に見える現象に、行動科学や心理学、経済学の専門家の知見を添えて解説していく。
仕事を片付けることに苦労しているすべての人々に本書が役立つなら、著者としてこれ以上の喜びはない。
斎藤栄一郎(さいとう・えいいちろう)
翻訳家・ジャーナリスト。山梨県生まれ。早稲田大学社会科学部卒。主な訳書に、ビクター・マイヤー=ショーンベルガー他『ビッグデータの正体――情報の産業革命が世界のすべてを変える』、ウィリアム・H・マクレイヴン『1日1つ、なしとげる!――米海軍特殊部隊SEALsの教え』、アシュリー・バンス『イーロン・マスク――未来を創る男』(以上、講談社)、ダグ・スティーブンス『小売の未来――新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』、同『小売再生――リアル店舗はメディアになる』、クリスチャン・マスビアウ『センスメイキング――本当に重要なものを見極める力』、フレッド・シュルアーズ『イノセントマン――ビリー・ジョエル100時間インタヴューズ』、ブラッド・スミス他『TOOLs and WEAPONs――テクノロジーの暴走を止めるのは誰か』(以上、プレジデント社)、ビクター・マイヤー=ショーンベルガー他『データ資本主義――ビッグデータがもたらす新しい経済』(NTT出版)などがある。
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