もう20年も前の話だが、日興証券のシカゴ現法から日本に帰って自己売買部門に配属された。日経225やSP500、通貨、債券先物など朝から晩までトレードした。一日で家何件か吹き飛ばす事も日常で、日々苦悩の繰り返し。よく胃カメラを飲みに行った。何とか「うまくなりたい」という気持ちがあったのと、米国でベストセラーだった原書に感激していたので、1991年、当時の上司を焚きつけて日本経済新聞社に『マーケットの魔術師』翻訳の話を持ち込んだ。
日中、会社でトレードして、自宅で夜中まで翻訳するという日々を半年続けた。もう時効なので言うと、締め切りに間に合わない先輩方の担当まで翻訳して大変だった事を思いだす(こう書いてもクレームが来ることはないと思っている)。
でも、おかげで原書を20回、翻訳のチェックに20回ほど赤鉛筆引きながら『マーケットの魔術師』を読み返したり、気に入った文をノートに抜き出して、毎日読み返していたら、本当に儲ける事ができるようになった。というか自信がついて損しなくなった。
あるトレーダーの章で「人生はリハーサルでなく実演だから真剣にやらなければいけない」というセリフにハッときた。そんな事、それまで教師にも親にも言われたことがなかったから。
当時、独学でC言語を勉強してティックデータをバックテストしたのも懐かしい。1999年にドリームバイザーを起業してから「自分がトレードで使いたい」というプロダクトを提供してきた。多くのベンチャーの例にもれず創業時に倒産寸前までいったが、その後、何とか上場できたのも多分、この本の影響だと思う。立場上、会社を始めてから売買できなくなったが、これまで公私を含めた私の運用履歴は現在までプラス。もちろん今後はわからない。
日本経済新聞社からパンローリングに引き継がれ現在でも販売されているが、米国で出版されたのは1989年で、随分話題は古い。だが、テクニックではなく、運用者としての心構え「勤勉であれ」、「想定してからトレードに向かう」、「遊びでトレードしない」、「あきらめない」など、本質的な部分は今でも十分通用する。将来、隠居して株やFXの売買を再開したら、この本が再び私の指南書となるのは間違いない。
今回、推薦するのは、そのシステムトレーダー編。やはり、システムトレードのテクニックの部分ではなく、「人のせいにしない」、「自分で考える」、「シンプルである事を恐れない」と言った普遍的で真摯な姿勢、心構えを参考にしていただきたい。
それはディスクレッション(裁量)もメカニカルも共通だと思うから。